2019年1月

北雪


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もうずっと昔のこと。佐渡の冬の中にいた。どの街にいたのかさえ覚えていない。夜、吹雪のなか旅館から飛びだして居酒屋を捜すと、すぐに萎びた居酒屋が見つかった。雪降るなかにポツンと灯りを点けて、なんだか健さんの映画に出てくるような構えだった。中に入るとカウンターだけで、女将が「あら、いらっしゃい」と迎えてくれた。

頭の雪をはらって、熱燗を頼んだ。ツマミは軽いものを適当にお願いして、女将をよく見ると、驚くような美人だった。なぜ、こんな街に・・・ちょっと嬉しくなった。この雪では、客はもうこないだろう。

熱燗が出てきた。「美味い」。沁みるように胃に広がった。至福〜。いい酒ですねえと誉めると、これですと一升瓶を見せてくれた。ラベルには「北雪」とあった。新潟の酒ですか?
「これは、佐渡のお酒なんです」。手に取ってじっくり見た。北雪の文字が吹雪いている。そんな話をして笑った。島で、こんなうまい酒を造るなんて、凄いと感心した。これからこの酒を贔屓にしようと決めた。

しばらくすると「いらっしゃいまし」と角刈りの好い男が現れた。
「ん!?」。だよなあ、一人なわけないよなあ・・・苦笑い。

北雪のラベルを見ると、必ずこのときのことを思い出す。あの女将はどうしているだろう。訳あり風の二人なのだと勝手に決めて、記憶の片隅に置いた。東京に帰ってから北雪を探し歩いたが、なかなか見つからなかった。
昨日、事務所の近くのリカーショップで発見。いま、とてもご機嫌。。


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死亡記事


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いただいたカレンダーは全て飾っている



あ〜もう一月が終わる。一月はイク、二月はニゲル、三月はサル・・・年の初めは、ことさらに早いらしい。

死亡記事が目に入る。一昨日は友人の動物カメラマンのKさんが。そして昨日は橋本治氏。いずれも70歳。まだまだ若く、人ごととは思えない。橋本氏の喪主が、母親になっている一行を凝視した。おいくつなのだろうか。東大の合格を、書き上がっていく作品を、さぞ喜ばれたに違いない。なのに自慢の息子を送ることになってしまうとは・・・辛いよなあ。人生は分からない。


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九州新年歌会の二席でこんな副賞をもらった


あの日


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五行歌を始めて13年目になる。歌への変わることのない想いがずっと続いている。もし若い日の私が、歌を詠む楽しみと能力を持っていたら、どんな歌を創っていただろうと思うことがあった。
そんなことを夢想していたら、去年辺りから、ふと現れる少年の青年の私が、歌を詠み始めるようになった。


慎ましい暮らしがあった頃
こんな石鹸で
顔や手を洗って
清潔の匂いを
嗅いでいた

きれいな人が
ひとりいて
きれいな風が
はいってきます
三年四組  窓側  一番後ろ

分かってた
二人とも
なのに
爆ぜる薪  見つめながら
夢なんか  話してた


少年は未知への憧れと汚れていない心を持っていた。青年はそれに向かって走り始めていた。懐かしい私は、歌を創る余裕を持っていた。それが嬉しい。
いま、記憶の引き出しを一つずつ開けて、母との時間を取り戻そうとしている。

2918


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肉が18枚。つまり「ニクジュウハチ」。九州新年歌会の懇親会は、博多しゃぶしゃぶだった。滅多に口に入らないブランド肉がこんなにも〜〜。タレが三種類あって、もう箸が止まらない美味しさだった。そしてお酒は、気仙沼のTさんが持参したウスニゴリ。これも極上の酒で、しばし首を垂れて、涙・・・(ウソ)。

歌会で二席をもらった上に、大好きな九州の人たちと酒が呑める幸せを噛みしめていた。うまか〜よかよ〜と、最高の夜を過ごさせてもらったのだった。


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プロジェクターにも映していただきました


「富久」


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絵師Kさんの描く菊之丞師匠


錦織は残念ながら負けたけれど、なおみちゃんが決勝に進出。全豪オープンから目が離せない。若手がどんどん伸びている。五行歌もテニスも新人が伸びていくのは気持ちがいい。
さて今日はこれから落語の会で、菊之丞師匠の一席が聞ける。新年らしく「富久」がかけられる。分かってはいるが、幇間の久蔵の慌てぶりに笑いも一緒にお伴しやす。。


年間大賞


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昨日は麹町歌会。年間大賞の発表があった。一年間の席の歌から選出者43名の投票により、一席を決めるという年明け恒例のお楽しみだ。一席はこの二首だった。


恋しさの         Kさん
伝えかた
人間が一番下手
言葉を見つけて
しまったから
              
猫のツメみたいな月が   Hさん
心を引っ掻く
今夜は
騙されたままで
いようか



小生の歌は次点だった、残念〜。


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題詠は、ほぼ予想通りでこの二首が一席。Kさんはグランドスラムだ。


連凧に         Kさん
なれない
凧は
空の大きさと
独りで闘う


冬のりんご       Mさん
四つに切ってから
皮をむく君を見ながら
まぁるく剥いてた
あの人を思い出してる


題詠で、小生のこの歌が三席に入った。


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五行歌会


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森羅万象だろうが、海千山千だろうが、「日光連山伏流水仕込み」の表記を見れば、もう気分は我田引水。歌会を終えて素早く宴会の準備。
風林火山のごとくコップに注ぎ、深山幽谷の味わいを楽しめば、天下泰平、不老不死・・・と思ったのは、もう一ヵ月前。

もうすぐ今年初の麹町歌会。年間大賞が発表される日でもある。さてどんな歌が選ばれるのかな。

来客


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冬鳥をよく見かける。日本は過ごしやすいですか?鳥ばかりでなく、人も日本に多くやって来ていて、増加の一途をたどっているようだ。政府の目標は、東京オリンピック開催までに約4,000万人の訪日外国人を呼び込むと鼻息が荒い。一番の理由は、円安。そしてビザの緩和。もう一つがLCC。つまり航空運賃の安い便が増えていることだろうか。

昔は、爆買いする旅行客が多かったけれど、ネット販売が主流になるとピタッと消えた。いまは、着物を着る、食事をする、旅館に泊まるなどを楽しみにしている人が多いという。結構なことだ。
あとは、Wi-Fiサービスの徹底だけかな。


空が近くて


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去年のクリスマスの日、夕暮れの少し前、環八の大きな歩道橋の上で、水色の空を眺めていた。大きな刷毛で重ね塗りされた空色や藤色が染みるように広がって、贅沢な日本画の冬空。西からの光がこんなマジックタイムを創っていたのだろう。
一つの歌を思い出していた。

歩道橋の上で
きみに
話してみたくなったのは
きっと
空が近かったからだ

この歌は、新年の歌会に出されていた。こんな解釈をしていた。
亡くなった親しい友人のことを想い続けていた。歩道橋の上でこんな大きな空に出会ったら思わず立ち止まってしまう。そして元気だった君を思い出して話したくなる。

作者:歩道橋の上で振り返って、思わず君に話しかけてしまった・・・。
なるほど、そうであってもかまわない。なぜなら空がこんなにも近くて、美しいのだから。


冬苺(フユイチゴ)


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名前がいい。フユイチゴ。イチゴは冬だろうと言われれば、確かにそうなのだが、野山ではイチゴは、初夏に花を咲かせて実をつける。冬、杉林の下で隠れるようにしているイチゴを見つけると、どうしても手が伸びる。そして一粒を口に含む。
甘酸っぱい。けれどちょっと違う。完熟しているような、寒さを耐え忍んでいるような「冬の味」がした。


葛飾柴又(2)


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こんな見事な自己紹介、他にあるだろうか〜♬

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獅子舞は、16世紀初頭、伊勢国(いまの三重県)で飢饉や疫病除けに獅子頭が作られ、正月に舞ったのが最初だと言われている。その後、17世紀に伊勢より江戸へ上り、悪魔を祓い、世を祝う縁起ものとして江戸に定着。祝い事や祭礼で獅子舞が行われるようになった。


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お囃子にあわせて獅子が舞い、ご祝儀が出ると店員、客を問わず大きな口を頭にタッチ。今どきは噛まないそうで、みんな嬉しそうに頭を出す。そんな様子を眺めていると、忘れていた小さな幸のありようを知る。眺めている人たちが、皆笑っている。

寅さんと山田監督は、こんな日本の原風景を残しておきたかったのだなと思う。佃島は高層ビルに囲まれてひっそりと残っていたが、ここは生き生きとした街の賑わいがある。まさに生きたテーマパークだ。

お店に入ると女性たちは、サクラさんのように三角巾を被り、それぞれの店に名物オヤジがいそうだ。団子を頬張りながら、ゆっくりとまた歩いてみたい。

葛飾柴又


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吟行歌会も29回を数えた。年4回(春夏秋冬)だから八年目を迎えることになる。今年の最初は、葛飾柴又。ご存知、寅さんの故郷だ。柴又駅に降りると、駅前には寅さんの像がスッと立っている。いなせな姿は実際の寅さんより男前だ(たぶん)。ここで地元のボランティアの方と落合う。

まずは疾病除けとして「神獅子」と呼ばれる獅子舞神事が奉納されている八幡神社へ。するとその獅子舞を演じる方々が出てきた。お囃子がなって獅子が舞い始めると、商店街が一気に賑やか華やかになる。正月らしくていいねえ〜。


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一軒一軒で獅子が舞い、無病息災、商売繁盛を祈願する人たちが獅子に頭を噛んでもらい、ご祝儀を大きな獅子の口に入れる。懐かしい風景だ。帝釈天でお参りをしたあと、商店街の一軒でランチして吟行モードにはいる。


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記憶


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梅の写真を見ていたら、正月、高尾山の帰りに嗅いだ白梅の香りを思い出した。そうだ・・・シャッターを押すとき、被写体に向けて想いを重ねていることがある。後日、そのカットを見ていると、言葉が生まれてくる・・・。

カメラを失くして気がついた。高尾山で会津で、撮影した一つひとつに何かしらの想いを込めていたはずだ。もしかするとそんな想いを記憶させるために、シャッターを押していたともいえる。カメラは記憶の装置か。

とすれば、失ったカメラから旅の記憶を引き抜くことはできるかもしれない。一つひとつを思い出してダビングしてみようかという気になった。
それで想いの半分は取り戻せる。


樹木希林さん


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やはり書こう。樹木希林さんのこと。
昨年「日日是好日」という映画を観た。希林さんはお茶の先生だったのではないかと思うほど、所作が身に付いて、静かな気品を醸し出していた。その一方、普通のおばさんの姿も程良い感じで、その二つの行き来を見ていると、心が和んだ。四季の変化が随所におかれて、日常の一つひとつが人生なのだよと伝えているようだった。

女優では珍しく、美貌などを誇示することもなく老いの姿を伝えながら逝った。全身を癌に蝕まれているようには見えない立ち振る舞いと話し方。もしかしたらそれも演技なのだろうかと思えるほど、インタビューを受ける晩年の彼女はいつも自然体で、そして普段着が美しく似合う人に見えた。

花に喩えるとなんだろう。冬牡丹だろうか。画家堀文子の好きな花。椿や桔梗、蓮、芍薬など多くの花を描いてきた彼女が好きな花は、牡丹。「気高く、王者の風格があり、終わりが美しい」というのが理由だ。

終わりが美しい・・・早くから癌との付き合いが始まったから、終わりの準備ができていたといえばそれまでだが、それ以前の生き方があったからこそ、人生の最後を描けたのではないかと思う。
時間ができたら、彼女の映画をいくつか観てみたい。


ならぬことは、ならぬものです


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娘へのお土産を見て、また思い出す。「コーラ!」



ふとこの言葉を思いだした。会津若松の駅前や城下町のあちこちで目にした「什の掟(じゅうのおきて)」という会津藩の藩士の子弟を教育する7カ条の訓示だ。

一、年長者の言ふことに背いてはなりませぬ
二、年長者には御辞儀をしなければなりませぬ
三、虚言を言ふ事はなりませぬ
四、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
五、弱い者をいぢめてはなりませぬ
六、戸外で物を食べてはなりませぬ
七、戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ

そして7カ条のお終いに、
ならぬことは、ならぬものです とある。
例え不合理と思われるものでも、決められた事を守れ。そういうことだ。昔は何の迷いもなく、教えを守っていた時代があった。

遠いご先祖を会津に持つ父親に、そんな精神を叩き込まれた。
あのカメラ持ち去りおばさん、会津駅から乗車したはずだが、会津の人間ではないな。

皆さまからいただきました慰めのお言葉をありがたく受け止めています。時間が解決していくことでしょう。きっと失恋から立ち直るよりも早いと思います。


ガックリ・・・


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手に残っているのは一枚の版画とチケットのみ


余程のことでなければ、へこたれないけれど、今回は参った。打ちひしがれた。もうすぐ新宿という長距離バスの中で、誤ってカメラを座席から落とした。カメラは床を滑り前へ流れていった。シートベルトをしているので、到着してから拾おうと判断した。バスが止まったので屈んで探していると、おばさんが拾って行きましたよと、若い女性が教えてくれた。荷物を外に出している運転手に渡すのだろうと思い、降りて聞くと受け取っていないという。
衝撃が走った。どうして?
車内に戻って、運転手ともう一度、床と座席を確認したが見つからなかった。案内所、バス会社のカウンターに行き事情を説明したが、これはもう戻らないのかもしれないと思った。
落としたときに、「カメラを落としてしまいました」と何故声を出せなかったのか。大いなる反省。自分を責めた。

アルキメデスを10年支えてくれた相棒である。その中には、年始、仲間たちと登った高尾山のスナップと会津の冬の風景300カットが記録されていた。二日間、雪の中に立って、木立や池、美術館、磐梯山の峻烈な姿を撮った時間が眠っていた。

池にでも落としたなら諦めはつくが、数人しか乗っていないバスの中で失うとは夢にも思わなかった。おばさん、返してくださいよ〜。



おめでとうございます


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一富士、みたか、嬉しいな。元旦、新宿発のホリデー号の車窓(三鷹付近)から富士山が拝めることができた。なんか、とても新鮮な気分。
一週間の禁酒でカラダが慣れてしまって不安になっていた。起きるはずの禁断症状がまったく現れない。これは歳のせいだろうか。コワ〜というわけで、2日のお屠蘇をいただく前に心身を清めようと、御岳山&日の出山登山を決めた。

ケーブルカーなんか使わず下からきちんと登ろう。山の冷気を吸い込みながら、一歩一歩登っていくと、新しい年の始まりを強く感じた。約一時間半で御嶽神社に到着。今年一年の山登りの安全、家族の健康、五行歌の発展を祈って柏手を高らかに打つ。


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日の出山まで足を伸ばし、お雑煮タイム。下ごしらえをしてきたから簡単だ。溶けないという餅二個をコッフェルに入れて、出汁を注ぎ込む。ガスに火をつけて、蓋をして、しばし景色を眺めてのんびり。正月の関東平野の空は晴れ渡っている。筑波山、富士山、副都心、そしてスカイツリーがはっきり。


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いい音がしてきたので、蓋を開けて餅を確認。お〜食べごろ。紙のボールに移し替えて、三葉と柚子を添えて完成〜。スープが冷えたカラダに沁みること〜、なんかとても真面目なお正月を過ごしているなあと自画自賛。この後、つるつる温泉でさらに幸せになって、2019年の元旦を終えた。


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冬の寒さが美しさを創造するのか