2011年11月

植物の家


IMGP2950.JPG

散歩の途中にこの家がある。いつから人がいなくなったのか、さっぱり記憶にない。人がいなくなると、こうした植物たちがちゃっかり棲みつく。春は若葉の家に、秋は枯れ葉色のオブジェをつくる。いつか私たち人間が消えてしまっても、何の心配もいらないのだろう。彼らがゆっくり浄化し再生してくれるのだ。
しかし、ここに人の暮らしがあったのだと思うと、廃屋を見るのは寂しい。


文殊(もんじゅ)



先週末、明治以来のご開帳となった「釈迦三尊像と十六羅漢像」を増上寺で観てきた。友人が説明員のボランティアをしていたので、その歴史を聞いてみると、この中門にあたる三解脱門は、390年前に建てられ、都内では数少ない歴史的建造物のひとつということだった。釘を一切使わずに柱と梁が組み合わされ、中央には釈迦如来像と普賢・文殊の菩薩様が静かに鎮座している。

さて、釈迦三尊像の前に立つと苦々しい思いが沸き立ってきた。まるで「パブロフの犬」を思わせるかのように。それは福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」に繋がってしまうからだ。
敦賀原発に「もんじゅ」と命名された時の「驚きと憤り」を忘れられることはできない。思わず「馬鹿者め!」と新聞を破り捨てたくなるほどの思いと、あまりの愚かさに絶句した。仏様の名前までつけなければならない、無知と無謀。これはいずれ天罰が落ちることになると思った。
発電を開始してわずか半年後にナトリウム漏洩事故が発生した。以後文殊の知恵は空回りを続け、いまその機能は停止されようとしている。人間の愚かさを思い、文殊様に手を合わせて自分の気持を収めた。


o0470042011570786614.jpg
中は撮影禁止なので増上寺のHPから借用、釈迦如来像の右側に文殊様


今年の落葉


IMGP2951.JPG

今年の落ち葉は人気がない。原発の影響で堆肥にしては、いけないようだ。街路の落ち葉や剪定された枝は、処分場に集められてから焼却されているようだが、焼却灰は一体どうなっているのだろう。焼却されると、濃度が上がっているはずだから、その後の処理も大変なはずだ。もしかしたら、どこかに埋められているのではないだろうか〜と思いながら、落ち葉の前を通り過ぎた。

落葉の匂い


IMGP7212.JPG

山を歩いていると、季節によって匂いが違うことに気づく。春の瑞々しい葉は色づき、新芽に養分を残し、役割を終えて散る。落葉の匂いが、昔嗅いだ祖母のような懐かしく心落ち着く香りがするのは、そんな一生を生きてきた穏やかさと重なるからだろうか。子どもの頃、落葉の山に飛び込んで、おもいっきり嗅いだあの匂い。芳しく湿った匂いは、いまも胸の中に残っている。目をつぶり息をゆっくりと吸えば、あの落葉の香りは鼻孔をすり抜け、脳を刺激する。記憶のなかの匂いは、きっと小さな小瓶に入って並べられている。



沢庵作り


IMGP7095.JPG

子供の頃、秋に入るとどの家でも大根を大量に買い込み、一家総出で沢庵作りをしました。我が家にドンと大根が届くと、気分がドンと暗くなります。樽に冷たい水を張った後、荒縄で作った大きな束子で、大根についている泥を洗い落とす手伝いが待ち受けていたからです。小さな子どもにとって大きな大根は重い。そして水が冷たく手が痺れていく。服が濡れる。そして何より当時の私は、沢庵が嫌いだった。なぜ嫌いなもののために、辛い思いをしなければならないのか。その不合理で苦しんでいた私を「紅葉の役割と冬の準備」という植物のメカニズムを伝える番組は、引き出しの奥から呼んできました。


銀杏並木


IMGP2879.JPG
途中からホコテンになります


東京の紅葉と言えば、神宮外苑の銀杏並木だ。11月の週末ともなると、この通りは人でいっぱいになる。地下鉄の出口には「←銀杏並木」の案内版が張られ、街路の下にはたくさんの警備員が配置される。近くにあるオシャレなレストランは満員になり、路肩にはいろんな店が出てくる。横断歩道で立ち止まったり、歩道から手を伸ばして写真を撮っていると、警備員が走ってきて注意する。なんだなんだ!東京は動物園や美術館だけでなく、ゆっくり秋の散歩も楽しめない街になっているのか〜!と愚痴のひとつも出てくる。
さて銀杏の葉の色づきはというと、まだこれからかな。これからの冷え込みに期待しましょう。



IMGP2877.JPG
神宮外苑に行ったら、踊り好きな銀杏を見つけてください




脱原発ポスター展


IMGP2849.JPG
オ〜こんなところに我が作品がありました


反原発をアッピールするために、ポスターを掲げてデモしたのは9月20日でした。その後、世界各国のデザイナーからも反原発をアッピールするポスターが寄せられ、その数はなんと200点以上。
そのすべての作品が、いま渋谷NHK前の桑沢デザイン研究所一階大ホールの「反原発ポスター展」で展示されています。イラストレーターの和田誠さんや秋山孝さんらも出品されていますので、よろしければ散歩がてらに鑑賞いただければと思います。会期は11月25日までです。


IMGP2855.JPG
手前の2点は、友人儘田さんの作品です


IMGP2851.jpg
気に入った作品は、これ!ポーランドのデザイナーによるもの


IMGP2854.JPG
そしてこれには参った。上手いな〜


色づく前に


IMGP7400.JPG

街路樹の葉が色づき始めました。落葉を踏みしめながら、ゆっくり散歩を楽しみたいところですが、新宿通りの街路樹のプラタナスは、きれいに剪定されてしまいました。落葉はゴミとして扱われるのでしょうか。ゆっくり色づくこともできずに、切られた枝とともにトラックの荷台に積み上げられ処分場に向かいました。残った木にはわずかの葉がちらつくだけ。冬が早く来てしまったような風景が残り、何とも寂しいかぎりです。


IMGP7216.JPG
絵手紙のモチーフにしたい柿の葉


パンパスグラス


IMGP6983.JPG

大きなススキ!と言いながら広場に入った人が、そびえるように成長したパンパスグラスに近づいてきます。ここは深大寺植物園。その高さは約4メートルぐらい。間欠泉が吹き出たような力強い稲穂は、風に揺れるとなんとも頼もしいかぎり。だからでしょうか、みんなその前で記念撮影をしていきます。パンパスというくらいですから、南米の草原が原産地。夕日を浴びて、揺れるシルエットを見ていると、こちらまで力がみなぎってきます。


ミスカマキリ


IMGP2839.JPG

こら!なに撮ってんのよ。ビビってるとピンが合わないわよ。あんた、怖がってるね!?。まあ仕方がないわね、こんな大きなカマキリは見たことないと思うから。前足を伸ばせば20センチ近くはあるかな。そうよ、オオカマキリのメス!ちょっと美人でしょ。オスは面長だけど、メスはわりと顔が丸いの。さてこんなことしてられない、そろそろ良いオスを探さなくっちゃ〜。またね〜!



香の木


IMGP2788.JPG

秋、林の中を歩いていると、ときどき甘い香りがする場所がある。鼻を利かせて辿っていくとハートの形をした葉が色づいていて、甘い醤油せんべいのような香りを放っている。この主は「かつら」で、別名を「香の木」。すでに落ちている葉を拾って嗅ぐと、もっと強い香りがする。かつらは、成長してもそれほど葉を密集させないので、新緑から落葉まで美しい姿を楽しめる。玄関や庭に植えたい樹木のひとつだ。なんと英語名も「katsura tree」。


IMGP2789.JPG
ハートの形をした葉っぱからは、甘い香りが・・・


風車


IMGP2820.JPG

朝方から風がなく、裏山の風車は止まったままだった。この風車の立つ場所は、伊豆の稲取バイオパーク。風の通り道に立っているはずだから、止まっていると、なにかもの足りない。ところが、3基の大きな羽がゆっくり回り始めた。風を受けてエネルギーを生み出していく。じつに力強く、そして優雅だ。

回っている白い羽を見ていて、おかしなことを思った。太陽光を利用したソーラーパネルが、光の眩しさや暑さにじっと耐えている「おしん発電」だとするば、風車は風に向かってグイグイと力仕事をこなしていく「風にも負けず発電」なのだと・・・。相撲でいえば、対称的な横綱である、隆の里と千代の富士といったところだろうか。
いずれにしても、水車や風車のように自然からのエネルギーを活かしていく風景とは、気持ちの良いものだ。


私を通り過ぎていった花たち(2)


IMGP2092.JPG

こんな雨の日は、このタイトルに助けてもらおう。早速目についたのがこの目玉のような花。これは権師匠と歩いた群馬フラワーパークの一画に咲いていた花で、スピランテス・オレラシアという。いかにも「わたし南方系の花よ」と言っているような名前だ。原産地は南米で、和名はセンニチギク。園芸店などではエッグボールとも呼んでいるらしい。エッグボールといえば、竹田製菓に「タマゴボーロ」というお菓子があったのを思い出した。昔よく口にしたお菓子で、さっと溶けて甘いタマゴのような味わいがあった。あ〜、あの舌触りが懐かしい。まだあるのだろうか。


DSCN2099.jpg
こちらは権師匠が送ってきた




高所恐怖症

山に登っているのなぜ高所恐怖症なのだと聞かれることがある。北穂高岳や槍ヶ岳、剣岳の垂直に近い壁を登った時に、高所恐怖症であることを強く感じた。足がすくみ心臓がバクバクするのだ。そんな時はどうしたか!?棟方志功が版画を彫る時のように、目を垂直の壁に押し当て、視界を狭めながら手と足をポイントに当てがい、ゆっくりと上がっていく。時々前後から「お〜凄い、ここで落ちたら終わりだ〜」なんて聞こえてくると、思わず深呼吸することになる。


IMGP2785.JPG


さてここは相模湖に続くある神社の階段。以前何度か上り下りしているのだが、改めて上から覗くと、よくこんな急階段をつくったものだと思う。目も眩むほどの眺めだ。もしここで誰かに強く背中を押されたら、下まで落ちていくかもしれないと思うと、後ろを振り返ってみたりする。神社の名前は、こんな気持ちを反映したのか「与瀬(よせ)神社」。


IMGP2806.JPG
相模湖駅までは国鉄時代が残っている石塀の道


道を誤る


IMGP2692.JPG
この道が誘惑をした


道を誤っていたことに気がついた。どこで間違えてしまったのか。いまなら正しい道に戻ることができる。みんなが歩くコースに戻ろう、そうと思ったが、目の前に続く道が誘惑をしてくる。しばし考えた。いままでプラン通りの道を歩いてきた。そうすることで決まった達成感があった。しかし・・・この道だって、どこかに続くはずだ。時間はまだある、ひとつこの誘惑に乗ってみようか。すると不思議な高揚感が沸き出てきた。

高尾山への道にさよならして、ウキウキした気持ちでそのまま進んでいくと、相模湖に下りていくことが分かった。この選択は間違えていなかった。むしろこんな偶然が、秋の散策を楽しくさせてくれた。人の声もなく誰とも会わないのだ。そりゃそうだろう、わざわざ都内と反対の方向に下りていくなんて、普通は考えない。ちいさな旅は、こんな寄り道が迷い道が楽しいのだ。



紅葉を見て


IMGP2750.JPG
野いちごをたくさん食べて


IMGP2769.JPG
イナゴくんとも遊んだ


IMGP2760.JPG
休んでいると雲がどんどん西から流れてきた。雨になりそうだ


陣馬山(2)


IMGP2678.JPGのサムネール画像

山頂にたどり着くと、南西方向の雲間から富士が顔を出していた。やはり頂きに立てば、眺望は楽しみのひとつ。汗を拭きながらぐるっと360度の景観を眺め、ベンチを探して一息つく。カエデやモミジがだいぶ色づいている。

刈れている芝生を見ていたら、十年ほど前にここで見た光景を思い出した。二十歳前後くらいだろうか、15人くらいの若者たちが芝生で車座になって、なにかゲームをしていた。あまりにも楽しそうなので、しばらく見ていると、なんと「ハンカチ落とし」をしていたのだ。おいおい、なんで君らがそれを知っているのだ。1人が低くしゃがみながら走って回り、誰かの後ろにそっとハンカチを落とすと、気がついた若者がみんなの喝采を受けて、再びハンカチを持って走り始める。可笑しくてこちらまで声を出して笑ってしまった。

なぜかほとんどの若者が白いシャツを着ている。どこかの町の青年部だろうか。そんな不思議な光景だった。しかし、最近その記憶に自信が持てなくなっている。思い出すたびに幸せな気分になるのだが、本当に彼らを見たのだろうかと。


IMGP2724.JPG
アザミの細い花びらから触手のようなものが伸びている


陣馬山(1)


IMGP2674.JPG
淡い日本画を見ているようでした


陣馬山から高尾山までの尾根を久々に歩いてみようと、土曜日の朝、JR高尾駅からバスに乗って陣場高原下に向かいました。朝方の山の麓は、空気が冷たく澄んでいて、大きく吸い込んでいくと、心身が浄化されていくようです。そして一歩一歩踏み出していく度に、体に入り込んだ悪霊からアルコール分、愚痴から無用な心配までがどんどん吐き出され、汗も浮かんでくる頃には、顔の表情と肌ツヤはすっかり良くなっていきます。やがて視界がすっかり良くなった頃、頂上付近から歓声が聞こえました。「わ〜富士山!」


ヨルガオ(夜顔、moonflower)


IMGP2613.JPG
花言葉は「妖艶」「夜」

ビックリしました。いつも歩くアササンコースで、手の平ほどある白い大きな花を見つけました。とにかくデカイ!15センチ以上かもしれません。咲いていたのはこの一輪だけ。ツル性なのでアサガオの新種かなと思い、ググッと寄って接写しました。調べてみるとヨルガオ。アサガオ科なので、ウリ科のユウガオとは別の種類とあります。夕方から開き始め朝には萎むとありますから、まさに早起きのトクでした。しかし冷え込みも厳しい11月の夜、このヨルガオは一晩何を思いながら咲いていたのでしょう。

ゲンノショウコ


IMGP2365.JPG

この花はフウロにそっくりと思って調べたら、やはりフウロソウ科の多年草でした。名前は面白いというか、なにかそのままと言うか、「現の証拠」。まったく花らしからぬ名前です。こんなことが書いてあります。
古い中国の本「救荒本草」に、飢饉の時に食べられる植物一覧に良く似た植物が掲載されており、飢饉の際に食べたところ、下痢が治ったことから、薬草として認められたという。名前の由来は食べるとたちどころに薬効があらわれるということで、「現の証拠」であるという。茎は細く、他の植物にもたれるか、地表を這う。花は紅色と白色がある。
いちおう摘んでドライにしました。今度お茶にして飲んでみようかな。



IMGP2465.JPG
一緒に摘んだ花たち


ベロペロネ


IMGP2579.JPG

珍しいグリーン種です。この花の名前は覚えやすいですね。舌みたいなので「ベロペロ」と声にすれば、ほら、もう覚えられる。「ベロペロネ」はギリシャ語で、ベロス(矢)とペロネ(帯)のふたつの言葉が合わさったもので、雄しべには矢の先端のカタチがありそれが帯状に繋がっています。しかし葉っぱに似た苞で包まれていて、なかの様子がわかりません。そっと苞を開いて覗いたりすると、雄しべの矢がパッと飛んで来たりするかもしれません。エビの尻尾にも似ているから、別名をコエビソウ。