北雪


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もうずっと昔のこと。佐渡の冬の中にいた。どの街にいたのかさえ覚えていない。夜、吹雪のなか旅館から飛びだして居酒屋を捜すと、すぐに萎びた居酒屋が見つかった。雪降るなかにポツンと灯りを点けて、なんだか健さんの映画に出てくるような構えだった。中に入るとカウンターだけで、女将が「あら、いらっしゃい」と迎えてくれた。

頭の雪をはらって、熱燗を頼んだ。ツマミは軽いものを適当にお願いして、女将をよく見ると、驚くような美人だった。なぜ、こんな街に・・・ちょっと嬉しくなった。この雪では、客はもうこないだろう。

熱燗が出てきた。「美味い」。沁みるように胃に広がった。至福〜。いい酒ですねえと誉めると、これですと一升瓶を見せてくれた。ラベルには「北雪」とあった。新潟の酒ですか?
「これは、佐渡のお酒なんです」。手に取ってじっくり見た。北雪の文字が吹雪いている。そんな話をして笑った。島で、こんなうまい酒を造るなんて、凄いと感心した。これからこの酒を贔屓にしようと決めた。

しばらくすると「いらっしゃいまし」と角刈りの好い男が現れた。
「ん!?」。だよなあ、一人なわけないよなあ・・・苦笑い。

北雪のラベルを見ると、必ずこのときのことを思い出す。あの女将はどうしているだろう。訳あり風の二人なのだと勝手に決めて、記憶の片隅に置いた。東京に帰ってから北雪を探し歩いたが、なかなか見つからなかった。
昨日、事務所の近くのリカーショップで発見。いま、とてもご機嫌。。


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