2019年8月

解体ショー


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解体ショーをしますというので、呑むのを一時中断し、カウンターの特等席に移動する。今や居酒屋ではこんなことをするのかと、ドキドキしながら待っていると、踊り子ならぬホンマグロが俎板の上にドンと乗った。でかい、というか、ギョギョであります〜と思わずサカナクンになった。尾を切られ、頭を落とされて、あっという間に五枚に下ろされる。見事なものだ。

真ん中の骨の部分が競りにかけられた。骨には中落ちがビッシリとついている。「1500円!」。ハイッと手をあげると数人が続いた。ジャンケンである。負けてなるものか!〜〜見事、勝って、9人が待つテーブル席へ。大きなスプーンで、赤味を掬い取りそれぞれのさらに皿に分けていく。マズいわけがない。けれどこのホンマグロもいずれ絶滅危惧種になるのかもしれない・・・と思うと、複雑な気持ちになった。


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あっという間にホンマグロは、五枚に下ろされた


友、逝く


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蝉の声が心なしか遠ざかって、夜は虫たちの大合唱。川面をゆく風も涼しくなって、季節はグラーデーションというよりも、プツプツと切れ目を入れたかのように変わっていく。これでは過ぎていった日々を振り返るというより、次の季節のことを思ってしまう。

八月は夢花火。思わず歌いだした。上京して初めて知り合ったSが逝った。18歳のときに同室になってから半世紀の時間が流れたことになる。性格はまるで違ったけれど、心のそこから信じあえる友だった。カメラマンから訳があってテキ屋の大将になって、若い衆からも慕われて、二人の子どもに恵まれて、家族と猫を愛し、愛された。

オシャレで、シャイで、優しく、正義感が強く、最高の友人。元気な頃は、このブログにいつもコメントを入れてくれた権ちゃん。権師匠。だれからも慕われていた。体の機能が徐々に衰えていく難病を抱えて、ここ数年、辛い時間を過ごしていた。やっと楽になれたのかな。

沁みるようなことを言う友人ばかりが、なぜか先に逝く。

滝雲


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早朝、広がった雲海は、山の稜線から滝のように流れ落ちていくことがある。これを滝雲という。運よく正面から見ることができると、一条の滝に見えたり、溢れでるような大滝だったりと、自然がつくった造形美のなかでもひときわ美しい。

モルゲンロート


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デジカメのバッテリーが切れていたので、この写真はスマホで撮った。ズームにしていることもあって画像はよくない。笠ヶ岳に向って、槍の穂先の影が伸びている。皆がご来光を眺めているとき、振り返ったら、こんな面白いシーンに立ち会えた。

遠くから見る笠ヶ岳は、槍に似ているのでよく間違えられる。四年前、10時間ほどかけて登った記憶が蘇った。ぐるり360度の山々は、ほとんど制覇した山となった。どの山も鮮明に思いだすことができる。日常のあれこれは、はっきり覚えていないというのに、不思議なものである。槍は、体力的にもこれで最後になるだろう。

*モルゲンロート
夜が明けきらない早朝に、東の空より一筋の光が山筋を照らし、山脈や雲が赤く染まる朝焼けのことをいい、山がもっとも美しく見えるときの一つ。


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笠ヶ岳の山頂から槍を眺めた四年前・・・


母子手帳


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妹から届いた古い母子手帳。母が残した箱の中に入っていたそうだ。藁でも漉き込まれているのではないかと思われる質のよくない紙。馬糞紙とかいわれた紙だろうか。表紙には母の名前はあるが、私の名前が抜けている。中面にもほとんど記述がない。長男として大切に育てたはずなのに、なぜ記帳しなかったのだろう。

ヒナが口を揃えているイラスト。四羽というのは、この国を早く復興させるために、まだまだ生めよ増やせよだったのだろうか。親鳥の羽がアメリカ国旗のようにも見える。


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朝方生まれたことも初めて知った


カワハギ


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カワハギの肝和えを食べたい・・・


セミファイナル


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しっかりと樹液を吸っているミンミンゼミ


長い梅雨が終わって、蝉たちが競うように鳴いている。主力はアブラゼミの合唱で、ミンミンゼミがソロの高音域で啼き叫ぶ。この二種類の比率はどれくらいだろうか。

いつもの散歩道を歩いていると、一度だけツクツクホウシの声が聞こえた。徐々に回転数を上げる啼き方が懐かしい。幾種類も聴こえると生物の多様性があるようで安心する。これで夕方にヒグラシでも啼いてくれると嬉しいのだけれど・・・。


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五行歌の展示会には、山友、歌友、学生時代の仲間が来てくれました


落花せず


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これは暑さのせいなのだろうか。ムクゲの花が閉じたまま落下せずに枯れている。普通であれば、花が終われば蕾となってホロホロと落ちていくはずなのだが。

ムクゲは韓国の国花。もしかしたら暗礁に乗り上げたままの日韓関係を憂いているのかもしれない。


コバイケイソウ


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圧巻は、このコバイケイソウだった。カール一面にこれだけの群落は、他の山では見たことがなかった。見事なのだが、この花には臭気がある。昆虫たちにはたまらないのかもしれないが、公衆トイレを想像させる臭いだ。この後、いくつかの群落を通過するたびに、臭いの覚悟を必要とした。

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ヤマハハコ

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ハクサンイチゲ

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ゴゼンタチバナ

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チングルマ

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青い花


フデリンドウ


花をゆっくりと愛でる時間がなければ、山旅はつまらない。気がつくと今回は、花をあまり撮っていなかった。余裕がなかったのかもしれない。


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イワギキョウかな

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トリカブト

北アルプス縦走(3)


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右に行けば笠ガ岳、そして左には槍ヶ岳

槍の医務室で頭の傷を縫合してもらってから一週間。そろそろいいだろうと思い、近所の外科で抜糸した。痛っ、と思ったらハイ終わり。黒い二本のナイロン糸を貰い、戒めとしてときどき眺めることにした。槍の外科医は「まかり間違えたら・・・」と言っていた。きっとその通りかもしれない。運がよかっただけだ。

反省を込めて今回の山行を振り返った。
・五泊を車中、山小屋泊はキツ過ぎ(睡眠不足)
・体力が落ちていた(地図中の時間通りに歩けない→老化)
・リュックの荷の重さが堪えた
・暑さ、酸素の薄さが堪えた
・熱中症になりやすい体質を自覚した

人よりは強いと思っていたのは、昔の話。荷物は少なく、時間と余裕をもって、計画は綿密に。事故はすぐそこにある。



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北アルプス縦走(2)



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白山が見えた。あのときも夜行バスで金沢に行き、その日に山頂まで登り、山小屋で一泊した。翌日ゆっくり下山して温泉につかってから、金沢21世紀美術館で舟越桂の作品展を観た。そんなことを思いだしながら、広大な北の俣岳への道を上がっていく。


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遥か彼方に槍を見つける、明日はあそこまで行けるのか・・・

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百名山中、もっとも時間のかかる山がこの黒部五郎岳だ

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やっと黒部五郎小舎を発見する、ここも遠かった

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この日の夕焼け


北アルプス縦走


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いつどこを見ても北アルプスの山々は、その雄大な姿を満々と讃えていた。朝な夕なに、刻々と変る天然色。その変化を見逃さぬよう焼き付けた。

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槍ヶ岳


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3日目、デジカメの最後のカット、ここで電池切れに・・・


ここから三時間であの槍に辿り着けるのだろうか。疲れた頭で、見え隠れする槍を眺めていると、絶望的な気持ちになった。もう午後二時を過ぎている。遥か遠くに見えた槍は、いよいよ間近になった。さあ来いと呼んでいる。ここから三時間。急峻な西鎌尾根を上って行くしかない。


黒部五郎岳(2,840m/日本百名山89座目)


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黒部五郎岳の山頂直下で雷鳥の番いを発見、これは雄


黒部五郎岳を登頂した翌日、槍ヶ岳までのルートで、後半、気を失いかけるほど体力を消耗した。朝3時に黒部五郎小舎を出発し、槍ヶ岳山荘に到着したのは17時。14時間くらい歩いていた。酸素をいくら送り込んでも10メートルほどしか進まなくなってしまい、最後は気力を絞った。気力だけで1時間くらいは進むことを去年体験済み。

小屋になんとか到着して直ぐに慈恵医大の医師がいる医務室に向う。
「すいません、点滴をお願いします」と看護士に伝える。しかしすでに二人が点滴中。待っている間に、頭を打ったことを伝え、診てもらう。
「これ重症ですよ。パックリと肉が裂けている」。スマホで写真を撮り、切り口を確認。「直ぐに縫いますから、麻酔打ちますよ」医師二人、看護士二人に囲まれ、掴まれ、オペの始まり。

午前中、三俣蓮華岳の手前で派手に転倒し、岩に打ちつけられた頭部から嫌な音が聞こえた。後ろを歩いていた三人のパーティに助け起こされ、出血を伝えられた。岩に座り、全身をゆっくりと動かす。手足の四五カ所が痛んだが、骨は折れていなかった。帽子、パーカーがダメージを抑えたのかもしれない。頭からの血はしばらくして止まった。

「はい、縫い終わりましたよ」。ユーモアのある中年の男性医師が、ポツリ。「運がよかったですね。今日は外科医の当番だったから」「頭の打ち所が悪かったら、ヘリを呼んでいたかもしれない」。

槍には、いい医者がいると知っていましたので、気力でここまで来ました。
「嬉しいことを言ってくれますね」。二人で笑った。
礼をいい、医務室を出たとき、ヤバかった・・・と、震え上がった。


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こちらは雌、優しげだ


西鎌尾根


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黒部五郎岳と草原の中の黒部五郎小舎


久々の三千メートル峰。今夜からバスに揺られて、百名山89座目、黒部五郎岳を目指す。この山はどこから登っても二日がかり。20年前「北アルプスの貴婦人」と呼ばれる薬師岳を登ってから、広大な雲の平を歩き、この黒部五郎を右に見ながら、水晶岳、鷲羽岳と登った。

今回は雲の平を眺めながら黒部五郎岳を登頂する。小屋泊をして三俣蓮華岳、双六岳を登り、西鎌尾根を経由して、第二の目標、槍ヶ岳を目指す。
三日目の西鎌尾根ルートタイムは10時間。体力は果たして保ってくれるだろうか。おじさんは少し不安気味・・・。