2018年2月

冬苺


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高尾山で冬苺を見つけた。初夏の野苺とは別の種類で、秋に花を咲かせ、冬に実をつける。一つ摘んで口に含んだ。甘い。

そういえば、雪の下から掘り起こされた、葉の茎部分に赤味があるほうれん草やしっかり結実したキャベツ、そしてダイコンや人参など、どれも驚くほど「甘い」。雪の中で冷やされると糖度が増すからだ。

人間も同じかな。「おらおらでひとりいぐも」の桃子さんのように、雑味が消えて、だんだんと旨味が引き出されていくのかもしれない。



影絵


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週末の朝、新聞を読んでいると、狭いダイニングに木漏れ日が入って、壁に庭木の影を映した。これは冬のお楽しみで、雲が低く流れている時などは、室内が息をしているように柔らかな影の明滅を繰り返す。

ふと影絵を思い出して、幾つ覚えているか、やってみた。犬、キツネ、鳥と、ここまで思い出したが、その後は手がもがく。そして新作のピロリ。


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大杉蓮さん


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大杉蓮さんが亡くなった。歳が近いこともあったけれど、演技の上手さ、若々しさ、そしてなにより華があって好きな役者だった。新年、ある二次会の司会で「こんばんは、大杉蓮です」とやった。ちょっと憧れでもあった。

死は、突然にやってくる。同じ心筋梗塞で帰らぬ人となった、父と弟のあの日を思い出した。蓮さんのご冥福を祈りたい。


ピロリ


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今年の健診項目にはピロリ菌チェックがあって、結果を見ると陽性だった。やっぱり。幼い頃はポンプで汲み上げた水を飲んでいたし、今も高い山では沢水を飲んでいる。まして日本人(50歳以上)の四人に三人はピロリ菌感染者だから、この結果は仕方があるまい。
その他の数値を眺めていたら、主治医からピロリ菌を除去してくださいねとT病院の紹介状を渡された。

ピロリ菌の正しい名前は、ヘリコバクター・ピロリ。なんか強そうでありながらもユーモラスな一面を持ち合わせているような響きだ。調べるとまさにその通りで、酸性の強い胃液の中にあってもアルカリ系の鎧をまとって、体をクルクル回しながら猛スピードで動き回っているという。
その推進力を生む回転速度は一秒間に約100回。人間にたとえると100メートルを5,5秒で走るスピードらしい。

凄いパワーの持ち主だ。何とかやっつけなければと思ったのだが・・・長く共に生きてきた同胞!?を絶滅に追いやるというのは、どうなんだ・・・。
不思議な寂しさが湧いた。


福浦港みなと食堂


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見あげると鳶が泳ぎ

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のんびり釣り糸が垂らされて

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浜では海苔を採る人たちもいるから

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一時間以上 待てる 春の人となる


オリンピッククラス会


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週末は中学時代の仲間と梅の咲く湯河原でクラス会。面子、待ち合わせ場所・時間、宿、カラオケルーム・・・全てがいつもと同じ。湯に浸かり、酒を呑み、懐メロを歌って、あの頃を語るという超マンネリの会なのだが、今回はオリンピックと重なった。

幹事の号令の元、スピードスケートのスタートの時間に合わせ、夕食を一時間、カラオケを二時間と決める。すると、おっさんたちはすっかり五輪戦闘モードになった。夕食はスキージャンプのごとく、全員が一時間ピッタリのK点超え。両手を広げるテレマークスタイルでカラオケルームへと向う。
マイクを持てば浴衣姿のイナバウアー。皆すっかり冬季オリンピックモードになった。よしラスト〜と声がかかれば「旅人よ」を合唱し、拍手で終わった。

さあ、いよいよ女子500mだ。カラオケルームを出た浴衣姿のおっさん五人は、女子団体パシュートのごとく一列になり、体をくの字の前傾姿勢をとって、廊下を滑るようにして部屋に戻るのだった。


P2189163.jpg^o^おめでと〜♬

おにぎり


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先日飛び込みで入った居酒屋に顔を出すと、「お〜いらっしゃい」と、今度は正しく迎えてもらった。主人とオリンピックの話で盛り上がる。世界のトップアスリートを讃え、なかなか日本は金がとれないねえ〜と、もう常連のようにすっかりリラックスしていく。
〆はおにぎりタラコでとお願いすれば、ド〜ン!風呂敷のような海苔に山盛りのご飯、なかにタラコが二本。思わず唸った・・・最後に何かが出るらしい・・・。

海を見る


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神奈川県立美術館の庭から細い道を下りていくと海に出た。光を吸い込んだようなスカイブルーと寄せてくる白い波。大きく息を吸えば、磯の香りがする。海が好きで、湘南に住まいを決めて暮らしている人たちがいる。この海の色を見ていると、なんか、分かるなあ。


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二匹の犬を連れて散歩しているカップルがさまになっていた。主人の海好きを知っているのだろう。寄り添うようにして、犬も海時間を楽しんでいる。
ふと犬好きの友人Zのことを思い出した。

「書き物をしている時なあ、大きな犬が足元にいると、ほっとするねん」。
その昔、愛犬のバーニーズ・マウンテンドッグが日産のCMに出ることになったと喜んでいた。サーファーでもあったから、あの犬も海に連れていってもらったのだろう。
海は、いろんなことを思い出させてくれる。


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海に出ていく人もいる


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堀文子展


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山の翌日は海。行ける時に行かねばと、葉山の神奈川県立美術館で開催されている「白寿記念/堀文子展」を観てきた。どうしてこんなに心に響いてくるのだろう。椅子に深々と沈みこみ、しばし考えた。

堀文子を知るきっかけは思いがけないことからだった。20年ほど前、写真家星野道夫の新聞記事を書いていたT氏に、一方的に星野の写真集を送った。それから十日後にファックスが鳴った。「いつかお会いしてお礼をしたいと・・・」。T氏と出会い、それから数年後「時間ある?いまから堀文子さんの作品展にいきませんか」と誘われ、堀文子の画を知った。この時期、柳沢桂子さんの表紙絵を描いていた。人との出会いは連鎖する。思考や生き方が近い人同士は、意外につながっていることが多い。

作品スペースの合間に彼女の言葉が記されていた。たとえば「・・・知識や経験をため込まないように心掛け、いつもゼロからの出発で、行く先もわからぬまま・・・」とか、「みんなひとりが寂しいといいますが、人といれば本当に寂しくないのかしら?人はそもそも孤独なんです」

そして
「群れない 慣れない 頼らない これが私のモットーです」
「自由は命懸けのこと」

などなど、自然に対する敬意やその厳しい生き方を知ると、絵を観るのではなく読むような感覚に変わっていく。彼女の気迫と優しさはどこから生まれてくるのだろうか。

丘の上の一本の木が強風に煽られている絵。銀波をきらめかせる海へ漕ぎだす一艘の小舟の絵。どちらも堀文子自身の生き方に違いなかった。
3/25まで。おすすめです。


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美術館の前は真青な湘南の海だった


鋸山(のこぎりやま)


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標高約330メートルの鋸山を甘くみてはいけない。急峻な登り階段と目が眩むほどの絶壁があって、なかなかの山なのだ。房州石と呼ばれる石材の産地として、江戸時代から盛んに採石が行われた山で、石切場跡には「百尺観音」なるものが彫られていた。

ここには「地獄のぞき」という名前からして恐ろしい眺望!?箇所がいくつかあり、お天気の日は東京湾だけではなく、富士山まで見ることができる。


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日本一大きな大仏様がある

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まるで海を見下ろしているような千五百羅漢の一つ

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漱石と子規も来ていた


空から鳶の鳴き声が聞こえ、春間近を思わせる一日だった。


ビデオ撮影


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フードスタイリストのご自宅のキッチンをお借りして終日撮影


仕事のお話。クッキングペーパーの撮影依頼がきた。写真ではなく映像、つまりビデオ撮影だ。「たぶん大丈夫でしょう」と応えたが、経験はほぼゼロ。親しい仕事仲間に相談すると、なんとかいけそうだった。紹介をされた編集スタッフには、正直に「初めてですのでいろいろ教えてください」と伝えた。この歳になると怖いモノはない。丸一日の撮影を終えた時には、ドット疲れていたが、ストーリ、脚本、原稿を売れっ子作家のようにガンガン描く、書く・・・。
いつのまにか対応できる知恵と工夫が眠っていた。
ますます怖いモノ知らずになりそう〜


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テニスボールの新しい利用・・・なるほどねえ

デコポン的出会い


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昨日の写真の答は「デコポン」。
こんな悪戯を思いつくまでには、ちょっとしたエピソードがある。

先週末、仕事が終わってから「おらおらでひとりいぐも」と居酒屋を探していた。断られたり、中に入ってから後ずさりしたりと、諦めかけて細い路地に入ると、小さな灯りがあった。もしかしたら暴力団系の店か、バカ高い店か?それとも民家・・・一度は通り過ぎたのだが、戻って、ままよ〜と重い引き戸を空けると、ギョロ目の親父と目が合った。

呑めますか? と聞けば
呑んでないか、あんた?と聞き返してくる。

呑んでませんが・・・

呑んでいるならダメだし
うちは一見さんお断りなんだ。

そうですか、でも僕は気にいりました。
呑ませてくださいよ。

そんなやり取りをしながら、カウンターの上の大皿料理を眺めると、どれも美味そうなものばかり。

うちはメニューも値段も出していない。

一枚板のカウンターは厚くて、広い。
椅子の具合もよく、オヤジの上から目線の位置も丁度いい。
気にいった。

よくドアを開けて入って来れたなあ、あんた。よっぽど変な人でなければ、このドアを開けて入ってくる人はいないよ。

勇気いりました・・・

ポツポツと話していくと、父方と同じ会津出身だと分かった。上京してからの苦労話や女に騙された話、店を作るまでのエピソードなど、いつの間にかこちらが聞き役になっていた。

美味しかった。また来ますとお勘定をお願いすると、「これお土産」と袋に包まれたデコポンを渡された。
シーラカンスと名店は、意外なところに隠れている。


!?


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さてこれは何でしょう?


一枚切りカッター


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新聞紙一枚だけを切り抜く。下の一枚を傷つけることなく魔法のように切る。雲のようなカタチをしたこの樹脂の先に、わずかな突起がある。これが優れもので、指を当てると感触はあるのだが、傷つくことはない。ここを紙にあて水平に動かすと、あ〜ら不思議。スルリと切れるのだ。
これを右手に持ちながら新聞を読むと、いつのまにか記事やエッセイの類いが増えている。


香香(シャンシャン)


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シャンシャンにちょっと心奪われている。今までのパンダとは何処が違うのか。頭のカタチ、タレ目、見つめる目、所作などが愛くるしくて、今までで一番かもと思っていたら、こんなニュースが流れた。

「パンダ史上最も美しいひざカックン」

映像を見るとシャンシャンの追撃に親パンダの左手が見事に挙がった。笑ってしまったのは「パンダ史上最も美しいひざカックン」のこのタイトルだろう。

今までの「一番」を見せろ、なんて野暮なことは言わない。
思い出したのが噺家、春風亭柳昇の自己紹介。年齢を重ねるごとに老人然とした風貌になり、しなびた声が心地よく、変わらぬ冒頭のセリフにいつも笑った。

「わたくしは、春風亭柳昇と申しまして、大きなことを言うようですが、今や春風亭柳昇と言えば、我が国では・・・(沈黙)・・・わたし一人でございます・・・」。
「我が国では」の後の沈黙で、もう笑いだす客もいた。

春風亭柳昇をシャンシャンに差し替えると、この大騒ぎがよく分かる。


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抽選によるご対面が終わり、いよいよ先着順で誰もが観られるようになった

おらおらで


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振り返ると一月は、追われるように一生懸命仕事をしていた。歌会以外で呑むこともなく、我ながら良く耐えたものだと思う。
こうなったら、おらおらでひとりいぐも。


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四谷/萬屋1.jpg
花の香りより酒の香り



赤い月


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9時51分。肘を躰にグッと引きつけ、呼吸を止めてシャッターを切る。それでもズームのシャッターは、ゆっくり瞬きを閉じるように時間をかける。本当に赤い月なのだろうか。引き延ばしてみると、たしかに赤かった。でもぶれていた。寒いベランダに15分おきに出て、陰っていく月を眺めていた。

「赤い月」は、なかにし礼の小説にある。戦前、小樽から満州に移り住んだなかにし一家の苦難と波乱に満ちた戦争体験の物語だ。彼は、この小説を書くために生きてきたと断言した。
実母がヒロインとなっている。偶然、その時代とヒロインの個性が重なる「月下上海(山口恵以子)」を読んでいる。舞台は夢のような都市「上海」、行ってみたかった・・・。


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そうか、タイトルの赤い月は
想いを寄せても裏切り続けた日本を意味していたのかもしれない。