3・11


P4178186.JPG.jpeg
五年前に訪ねた石巻港


十年前の今日を思い出す。大きな揺れが起きてしばらくすると、眼下の新宿通りを徒歩で帰宅する人たちが列をなしていた。現実のことなのに、違う世界にいるような不思議な光景を茫然と見ていた。

そんなことを思い浮かべながら、東北の歌人、斎藤梢さんの歌を読み返した。

 この力どこにあったか「津波だぞ」の声にかけ上がる立体駐車場

 十二日の朝日を待ちてペンを持つ 言葉は惨事に届かぬけれど

 桜餅のさくらの色の懐かしさひとりにひとつの配布に並ぶ

 夜のうちに溜まりしものを文字にして書き始めゐる今朝も車中に

 推敲はもはや必要なくなりてただ定型に縋り書きつぐ

書かなければならないという思いが、当時の歌から伝わってくる。エネルギーが凝縮されたまま残っていて、当時の景色も立ち上がってくる。
思いは言葉となって残る。それが歌だ。


 かなしみの遠浅をわれはゆくごとし十一日の度(たび)のつめたさ

 ベランダと春の海との間には冷たいままの更地ざらざら

震災を背負って、斎藤さんはいまも詠み続けている。


コメントの投稿

トラックバック

トラックバックURL: http://1c.3coco.info/mt-tb.cgi/3080