鳥海山


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Sから送られてきた鳥海山


この山に登ったのは、いつだっただろう。もう四半世紀前か。夜行バスで羽後本荘へ行き、早朝に由利鉃道に乗り換え、矢島という小さな駅で下りた。

初夏、水田の緑が美しく、鳥海山の半分は雪で覆われていた。矢島駅前バス停の表示を見ると、五合目までのバスは、まだ運行していなかった。

小さな駅でタクシーもなく、途方にくれていると、一台の車が止まった。「もしよければ、これから五合目の小屋まで行くので、乗ってください」という申し出。市の職員の方で、まさに天の助けだった。

鳥海山五合目の小屋の管理人、佐藤康さんが書いた本「ひとりぼっちの鳥海山」を読んでいた。佐藤さんに会えると思っていたら、すでに亡くなっていて、新しい管理人が迎えてくれた。

そこで生前の佐藤さんの話を聞き、管理人と犬と一緒に途中まで登った。六合目辺りに分岐があって、その日の宿へと続く山道があった。ところが数日前に、雪渓を踏み抜いたのか、一人行方不明になり、通行止めになっていた。今日中に辿り着けない・・・。

どうする。宿にキャンセルを入れて、五合目の小屋に泊めてもらおうか。

山頂への大雪原は、最高だった。一歩一歩、キックステップしながら登った。雲ひとつない快晴の鳥海山。山頂からは日本海と小さな島が見えた。

オニギリを食べていると、男性一人と女性二人のパーティが上がってきた。挨拶をして、世間話をして、故郷は札幌だと伝えると、その男性は山形大学病院の医者で「札幌医大時代、心臓移植手術をした和田医師の元にいた」という話になった。

「これも縁です。宿まで送りましょう」と云う。いくらなんでも車で片道、40分はかかるので、丁寧にお断りをしたが、「先生がこうおっしゃっているので甘えてください」と看護士の女性が笑いながらすすめた。

車は生まれて初めて乗るジャガーだった。宿に着いて、夕暮れの鳥海山を仰ぎ、奇跡のような一日を振り返った。そして翌朝、さあどう帰ろうかなと思っていたら、宿の方が、これから酒田まで行きますから、乗りませんかと云う。

それ以来、秋田県人には感謝の気持ちを抱いている。鳥海山をテレビで観るたびに、お世話になったその二日間を思うのである。

コメント

美しすぎるお写真にびっくりしました。
実際に観てみたくなります。

運の強いお話…ひとつの映画ができそうに感じました!

A)
独立峰の山は美しいです。
鳥海山は、山裾が広く、動植物が豊かです。
仰ぎ見る存在が、近くにある、なんか幸せですよね。

2023年8月29日 23:26 | ゆみゆみ

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