弛んでいる


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ある作家のエッセイを読んでいたら一駅乗り越してしまった。四谷駅前にはトンネルがあるというのに、気がつかない・・・頭が弛んでいる。

その作家は「怖い短編」をまず紹介をした。一人の男が結婚式でスピーチを始める。話が長くなり、三十分経ってもまだ話をしている。一時間、二時間、三時間・・・式場がパニックになっていく。話題になった短編らしい。それと同じ体験をしたというのだ。

ある有名な話好きの女史が乾杯の前に、新郎新婦の馴れ初めからプロポーズまで、延々と約三十分、話し続けていた。乾杯が始まらない。同席していた作家の久世光彦氏が、通る声で「長いなあ」と言った。それでもその女史の話は終わらない。

しばらくすると、ピンスポットの中の女史の顔の前を白い煙が流れていった。女史がふいに「長くなりましたので終わります」と言った。照明が点くと久世氏が美味そうにタバコをくゆらせていた。

あとにもさきにもあんな恰好のいい煙草の吸い方を見たことがない・・・そんな話に、ニヤニヤしていたら市ヶ谷駅でドアが開いたのだった。



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