森を背負う


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先日の五行歌全国大会に出した歌だ。席には入らなかったけれど、多くの方が「私が選ぶ五首」の一つに取ってくれた。Mさんのこのコメントが心に残った。

まず、一、二行目の、腹に響くようなずしんとした表現に、ぐっと引き寄せられた。「森を背負い」で、男を言いおおせていると思う。また、リアル感をもたらす松脂が一つの焦点にもなり、それらすべてが収劍していく五行目に、作者の人物像も浮き上がってくる。
一首の余韻のなかで私は、山男の憧憬をこめ、物語をつむぎはじめる。すばらしい作品です。

七月の末、尾瀬の木道を歩いていたら、一人の歩荷(ぼっか)さんとすれ違った。尾瀬の小屋で必要な食料や燃料、日常品を目一杯担いで運ぶプロだ。約100キロの荷を高々と背負子に積んで、腕組みをして哲学者のように坦々と木道を歩いていく。

ふと嗅いだ匂いは、森の中で働く男の誇りのように感じた。それは幼い頃、玄関にかけてあった父の作業着の懐かしい匂いを思いおこさせた。

他にも印象的なコメントを二つ。

Sさん
前にどこかで歩荷さんという山の荷物の運び屋さんのことを読んだことがあり、それかなと思いました。まさに森の使者のごとく懸命に荷を運ぶ姿に、作者は松脂の匂いまで嗅ぎとっている。作者もまた森を愛する人に違いない。

Kさん
私の個人賞です。森を守るために森に選ばれた人、責任を任された人、森に対して真面目に取り組んでいるからの汗をちゃんと流した人の匂い。責任感やまじめなお人柄、生き方を感じます。花や葉ではなく、松脂が森の男という感じです。読み手にも郷愁のようななにか温かいものを感じさせてくれます。


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小歌会一席で一筆箋をいただいた

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