Oさん


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この時期、標高千メートルくらいの山々では、ハルゼミが鳴き始める。その鳴き声は、カエルのような声にも聞こえる。決して涼やかというのではないのだが、樹々の中から聞こえてくると、春が終わりを告げ、季節が初夏に向っていることを教えてくれる。

亡くなったOさんは、面白かった。森の中を歩いていると「この声はカエルですか」と聞くので、蝉なんですよ。ハルゼミですと答える。しばらく歩いていると「この声はカエルでしたか?」と聞いてくる。それを数回繰り返して、思ったのだ。

Oさんは決してからかっているのではなく、真剣にその鳴き声に魅了されているうちに、どちらだったのか分からなくなってしまうのではないかと。このハルゼミの鳴き声を聴いていると、Oさんの質問を想いだす。


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Oさんの古い友人Iさんの手にしばらく止まっていた


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