三浦光世さん
見本林を一時間半ほどかけて散策し、文学館に入ると朗読会が開かれていた。建物の真ん中が多目的ホールになっていて、50人ほどの人たちがじっと朗読を聞いている。作品は「母」。小林多喜二の母セキが、自らの生涯を語る物語だ。公募で応募した五人が、リレー形式で読んでいく。音を立てないように、静かに館内を見学。ときおり朗読を聞きながら・・・。一階と二階は吹き抜けになっていて、作品室がまわりを囲んでいる。綾子の全作品、幼い頃そして彼女を支えた人たちの写真が見やすく展示されている。多くは初めて目にする写真だった。13年間、彼女を苦しめた数々の病気(結核、脊椎カリエス、心臓発作など)の時の表情は、とても暗い。しかし後に夫となる三浦光世が現れてからの表情は、一気に輝いて見えた。
ふと朗読会に目をやると、前列にその人、光世さんがいた。やや首を傾げて、静かに話を聞いている。ああ、この方が彼女を失意の底から救いだし、三浦文学を世に広げた方なのだ。もしかすると、会えるかもしれないと、密かに期待して訪ねてきたのだから、何という幸運だろう。
三浦文学のテーマは「ひかりと愛といのち」。「人はどのようにして生きたらいいのか」を問いかけている作品が多いのだが、晩年は口述筆記によって光世さんが代筆をし、まとめあげていった。彼は、自分から休もうとか、止めようと言ったことがないと綾子は言っていた。どんな時にも笑顔で、綾子の聞き役となり、仲睦まじい関係を築き上げた光世さん。もしかしたら、この人は、生まれてから怒ったことなどないのではないか、と思っている。
朗読会が終わって、椅子が片付けられ、落ち着いた頃、光世さんに話しかけた。会える日があると信じていたこと。今こうして会えたことに感謝していると伝えると、彼は手を引くようにして、綾子との出会いや当時の暮らしぶりを思わせる写真の前で、話し始めた。この手鏡で、彼女が寝たままで食事をしていたこと。二人が始めた三浦商店では、灯油まで売っていたこと。いろんな旅をして、分かり合えていったことなど・・・。別れ際には、よく来てくれましたと手を差し伸べてくれた。大きな温かな手だった。穏やかな笑顔、柔らかな物腰、90才とは思えない姿勢、神の元にいる方なのだろうと思った。
2013年9月18日 12:30 | カテゴリー: 歩キ眼デス2
コメント
三浦綾子さんの本を一時期、毎週図書館へ借りに行って、
読んだ事があります。
光世さんはキリスト教の信者さんでしたね。
とても仲睦まじいご夫婦だったようですね。
写真からも伺えます。
お話出来て本当に良かったですね。
下の写真は星様とですか?
A)
ハッハハ〜 (^^ゞ
ついに顔がバレてしまいましたね。
そうです。これが小生です。
出そうか迷ったのですが・・・ニヤけてしまっていますね。
光世さんは、脊椎カリエスで寝たきりの綾子を5年間支え、
誰とも一緒にならないと約束をして、結婚しました。
朝日新聞の公募した懸賞小説も、光世さんは必ず取れると確信していたようです。
こんな素晴らしいカップルを他に知りません。
いつかいつかは、と思っていた、この文学館を訪ねることができて幸せ〜でした。
まだ読んでいない「天北原野」に今度挑戦です。
2013年9月18日 17:09 | tama
静かな良い時を過ごされたのですね、こちらにも伝わってきます。
三浦光世さん、90歳とは、素晴らしい~
A)
若い頃の笑顔も素敵でしたが、いまは慈愛に満ちたお顔をされています。
しゃんとされて、こうありたいなと思いました。
2013年9月19日 11:48 | ミチマチ
良い時間を過ごされましたね~。
アルキメ兄の静かな興奮が伝わってきます。
A)
郷里の作家は、つい読んでしまいます。
そして思いが、募る・・・
光世さんとお話をするのは、夢でした。
穏やかで、温かな人。
いつまでもお元気でいてもらいたいですね。
2013年9月23日 11:58 | 空
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